2025年4月に何が変わったか
厚生労働省は2024年10月11日、職業安定法に基づく指針を改正する告示(令和6年厚生労働省告示第318号)を出しました。適用は2025年4月1日からです。
改正で、募集情報等提供事業を行う者の責務に、次の内容が加わりました。募集情報等提供事業とは、求人サイトのように、募集の情報を学生や求職者に提供する事業です。
指針の文言(要旨):労働者になろうとする者に対する募集情報等提供事業の利用の勧奨は、事業の質を向上させ、これを訴求することによって行うべきもの。募集情報等提供事業を行う者が労働者になろうとする者に金銭等を提供することによって行うことは好ましくなく、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて金銭等を提供することによって行ってはならない。
同じ改正で、料金や違約金などの明示も加わりました。求人サイトなどは、料金、違約金の額、発生する条件、解除方法を含む契約の内容を、書面や電子メールなどで、あらかじめ募集主に誤解が生じないよう示すことになりました。
職業紹介事業者は2021年4月から
職業紹介事業者については、2021年4月1日から同じ趣旨の規定があります。「お祝い金」などの名目で、社会通念上相当と認められる程度を超えて求職者に金銭などを提供し、求職の申し込みを勧めることが禁じられています。2025年の改正は、これを募集情報等提供事業者にも広げた形です。
- 12021年4月1日職業紹介事業者に同じ趣旨の規定
- 22024年10月11日指針を改正する告示(第318号)
- 32025年4月1日募集情報等提供事業者にも適用
なぜ禁止されたのか
厚生労働省のリーフレットは、改正の趣旨を次のように説明しています。
- 雇用仲介事業者が求職者にお金を渡すと、早く辞めて転職することにつながる(定着を妨げる)
- それに伴い、求人側に手数料の負担が生じる
- お金が目当ての採用報告が増え、募集主が複数の事業者から成功報酬を請求されることがある
- 高額な違約金を請求されるトラブルが起きている
つまり、仲介する事業者が自社のサービスを使ってもらうためにお金で誘うことを問題にしています。
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禁じられるのは、社会通念上相当と認められる程度を超える金銭等の提供です。ただしリーフレットのQ&Aは、相当な程度であっても好ましくないとしています。
相当かどうかに一律の基準はないとされています。提供の趣旨、額や経済価値、提供の方法、離職や転職を誘う効果、料金請求のトラブルが起きやすい形かどうかなどを見て、総合的に判断します。
現金やギフト券のほか、ポイントの付与も、現金と同じように使えるため原則禁止の対象です。一方、Q&Aは次の2つを対象外として挙げています。
- サービスの質を上げるためのアンケートで、回答者全員ではなく抽選で選んだ少数に、500円程度の電子ギフト券等を渡すもの
- 転職フェアの来場者やブース訪問者に、500円程度の電子ギフト券等を渡すもの(求人サイトへの登録の対価として渡すものを除く)
求人サイトなどが求職者に何を渡すか
出典:厚生労働省リーフレットのQ&A
また、Q&Aは、成果報酬型の料金を取ること自体は禁止していないと説明しています。求職者にお金を渡さないなら、成果報酬型の事業は続けられます。
雇用主が自社の労働者に払う手当との違い
ここで押さえたいのは、この規定の主語です。指針のこの部分が名指ししているのは、職業紹介事業者と募集情報等提供事業を行う者です。指針の現行の本文を確認しても、求人企業が自社で雇った労働者に払う賃金や手当を制限する同じ趣旨の規定は見当たりません。
| 比べる点 | 仲介事業者が求職者に渡すお金 | 雇用主が自社の労働者に払う手当 |
|---|---|---|
| 払う人 | 求人サイト、職業紹介事業者 | 労働者を雇っている会社 |
| 受け取る人 | 求職者、労働者になろうとする人 | その会社に雇われている労働者 |
| 目的 | サービスの利用や登録、採用報告を促す | 労働契約や就業規則で決めた条件を満たした労働への対価 |
| 主に関わる法令 | 職業安定法とその指針 | 労働基準法(賃金)、所得税法(給与) |
| 2025年4月改正との関係 | 原則禁止の対象 | この規定の対象として書かれていない |
労働基準法11条は、賃金を「名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定めています。会社が自社の制度として、一定期間働いた労働者に払う手当は、賃金として扱うのが基本の考え方になります。
ただし、名目だけで判断されるわけではありません。誰がお金を出しているか、誰が条件を決めているか、どのサービスの利用を促す効果があるかなど、実態で見られる可能性があります。求人サイトと組み合わせて手当を設計するときは、制度の形を専門家に確認してください。
賃金として払うときの実務
賃金支払いの5原則
労働基準法24条は、賃金を「通貨で、直接労働者に、その全額を」払い、「毎月一回以上、一定の期日を定めて」払うよう定めています。継続手当も賃金なら、この原則に沿って払います。
- 通貨払い:口座振込は、労働者の同意を得た場合にできる(労働基準法施行規則7条の2)
- 直接払い:本人に払う。家族などを通して払わない
- 全額払い:税金など法令で決まったものや、労使協定で決めたもの以外は差し引かない
- 毎月1回以上・一定期日払い:臨時に支払われる賃金や賞与などは例外
毎月払いの例外になる賃金は、労働基準法施行規則8条が挙げています。その中に「一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当」があります。3か月続けた人に払う手当は、この類型に近い形です。どの類型に当たるかは、支給の条件の決め方で変わるため、個別に確認してください。
最低賃金の計算には入らない
厚生労働省は、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金を、最低賃金の対象となる賃金から外しています。継続手当を足して最低賃金を満たす形にはできません。時給そのものを勤務地の最低賃金以上にしたうえで、上乗せとして払います。
労働条件通知書と就業規則に書く
労働基準法施行規則5条は、臨時に支払われる賃金、賞与、同規則8条の賃金について、定めをする場合は労働契約を結ぶときに明示するよう定めています。支給の条件、金額、支払日を労働条件通知書に書きます。
常時10人以上の労働者を使う事業場は、就業規則を作って届け出ます。臨時の賃金等の定めをする場合は、就業規則にも記載します(労働基準法89条4号)。求人票でも、賃金に関する条件として書いておくと、応募の段階で条件がそろいます。
源泉徴収と賃金台帳
所得税法28条は、給料、賃金、賞与などを給与等と定めています。給与等を払う会社は、支払いの際に所得税を源泉徴収し、翌月10日までに納めます(所得税法183条)。
国税庁は、賞与を「定期の給与とは別に支払われる給与等」と説明しています。継続手当を毎月の給与と一緒に払うか、賞与として払うかで、使う税額表が変わります。顧問の税理士などと決めておくと処理が迷いません。支払った額は賃金台帳に記入します。
支給条件の書き方の例
支給の条件は、読んだ人が同じ解釈をできるように書きます。たとえば次のような要素を決めます。
- 起算日:雇入れの日から数えるのか
- 期間:90日と書くのか、3か月と書くのか。どちらかにそろえる
- 勤務の扱い:その期間に在籍していればよいのか、一定の出勤日数が要るのか
- 支払日:条件を満たした後の、どの給与支払日に払うのか
- 金額:一律の額か、勤務時間に応じて変わるのか
ここで決めた内容を、求人票、労働条件通知書、就業規則で同じ言葉にそろえます。書類ごとに表現が違うと、支給の判断でもめる原因になります。労働条件の明示の全体像は長期インターンの労働法チェックリストで、求人票への書き方は長期インターン求人の書き方で説明しています。
- 1支給の条件・金額・支払日を決める
- 2労働条件通知書に書く常時10人以上の事業場は就業規則にも
- 3時給だけで最低賃金を満たす手当は上乗せ
- 4支払いの際に源泉徴収する翌月10日までに納める
- 5賃金台帳に記入する
制度にするときのチェックリスト
- 手当は会社の制度として、会社が自社の労働者に払う形になっている
- 支給の条件(期間、出勤の扱い)、金額、支払日が決まっている
- 対象となる人の範囲と、条件を満たす前に辞めた場合の扱いが書かれている
- 労働条件通知書に書いている。常時10人以上の事業場なら就業規則にもある
- 時給だけで最低賃金を満たしている
- 源泉徴収の方法(給与か賞与か)を決めている
- 賃金台帳に記録している
この記事は、2026年10月2日時点の法令と厚生労働省・国税庁の公表資料をもとにした一般的な説明です。手当の設計や個別の事案が法令に照らしてどう判断されるかは、社会保険労務士・弁護士・都道府県労働局にご確認ください。
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